クライミングというジャンルは違えど、木登りを生業とする私たちが登山家から学ぶ事は非常に多いと感じます(彼らの場合は手弁当なので全く別次元のお話しとも言えますが・・)。ポーランドが生んだ稀代のクライマー、ヴォイテク・クルティカ氏の半生を追った本書には、輝かしい記録と共に、無念にも敗退し続けた記録も赤裸々に記されています。
膨大な準備期間と大金をはたいて赴いたヒマラヤの山々で、あとほんの少しで山の頂に立てるという寸前で、肉体的にも精神的にも極限の状態の中、山の気候や自分の状況を俯瞰して、「これ以上突っ込んだら生きて帰れなくなる」という正確な判断が出来るというのはちょっと信じがたい能力です。確かに、とりあえず生きてさえいれば、また次の山に向かう事も、もう一度同じルートに挑戦出来る機会を伺う事も出来るというのは頭では理解出来ますが、自分に置き換えて考えれば、その場で正確な判断が出来るかどうか。結果を求めるあまり無理をしてしまう可能性は捨てきれません。
ツリーワークに携わっている方たちのおそらく誰しもに、大きな樹木の上で「あ、今ちょっとテンパってるな自分」という瞬間があると思います。普段出来ていて当然のチェックを怠ってしまったり、自分の能力を超える複雑な作業や無茶な工程管理、急な悪天候・・・挙げだすときりがないほど、危険は至る所に潜んでいます。そんな時はちょっと一呼吸置いて本書の事でも思い出しながら、時にはあきらめる勇気を持ちたいものです。
もう今日中に終わらせる必要は無いし、雨が降ってきたら延期で良いし、分からなくなったら降りてきても良い。無理をして全治○○か月の怪我を負うくらいなら、「ごめんなさい」で済ませれば良いと思います。健康でさえあれば、明日仕事に向かう事も、温泉に出かける事だって出来ますから。
無謀な挑戦をしているようで、人一倍慎重で繊細だったというヴォイテク・クルティカ氏の半生は非常に読み応えがありましたし、もうひとつの素顔が庭師だったという事実にはやはり共感を覚えずにはいられませんでした。